ロングステイ財団、認定アドバイザーがご案内します海外旅行保険の豆知識。
本日は、これから夏休みシーズンに向けて海外旅行を楽しまれる方も多いと思いますが、
日本人が多く渡航する渡航先国の医療事情などをご紹介。
事前にお国事情を知っておくと、安心できるかもしれません。
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1.衛生・医療事情一般
インドネシアは、東西5,000キロを越え国内の時差が2時間もある広大な島嶼国です。大小1万以上の島々に民族も宗教も様々な2億人以上の国民が暮らしています。衛生・医療事情は地域格差が大きく一概には言えませんが、一般的な留意点としては、怪我(交通事故、マリンスポーツ、登山)、熱中症、脱水症、経口感染症(下痢、肝炎など)、デング熱、皮膚疾患等、それから致命的な感染症である狂犬病には注意が必要です。結核、マラリア、日本脳炎、チクングンヤそして鳥インフルエンザ・新型インフルエンザについても注意を怠ってはいけません。医療に関しては、病院施設・機材の整備が進み、医薬品の品質も向上していますが、地方・郡部では医師、特に専門医が不足しています。国公立の病院は混雑しており、慣れないと邦人の受診は難しいでしょう。私立病院は比較的利用しやすいのですが、受診時に保証金(場合によっては数千米ドル以上)を要求されます。万一の怪我・病気に備え、クレジットカードの限度額を確認し、海外旅行傷害保険には必ず加入しておきましょう。
2.かかり易い病気・怪我
地域により状況は大きく異なります。ここではジャカルタを念頭に説明します。
(1)呼吸器疾患
風邪の後の咳が長引く、頻繁に風邪をひく、副鼻腔炎が悪化した、ずっと喉が痛い、喘息が悪化した…など、呼吸器関係の不調を訴える方が目立ちます。エアコンによる居室の乾燥、排気ガスなどによる大気汚染、閉め切った室内のダニ(アレルギー)などが背景にありそうです。また、日本では季節性インフルエンザは冬に流行しますが、インドネシアでは通年感染者が出ています。
(2)下痢・胃腸炎
食品衛生に十分注意していても、下痢や胃腸炎(食あたり)を発症することがままあります。原因病原体や感染源はなかなか特定出来ないのですが、ウイルス、細菌、寄生虫、品質の悪い調理油などが指摘されています。ジャカルタは下水道の整備が遅れ、そのためアメーバ赤痢が多いとも言われています。
(3)虫刺症(蚊以外)
皮膚露出部を中心に、蟻、ダニなどに刺され、痒みや腫れ、化膿を来すケースが珍しくありません。虫刺症は繰り返すことで感作されて症状が酷くなります。蟻は壁伝いに進入しますので、集合住宅の高層階でも注意が必要です。新調したクッション内のダニが原因で家族全員に発疹が出た事例もあります。蟻よりやや大きいアリガタハネカクシは体液が皮膚に付着すると強い炎症を起こしますので潰さないように注意しましょう。対策として、敷地全体に定期的に殺虫剤を噴霧する集合住宅もあります。
(4)デング熱
インドネシアの風土病の一つで、1960年代から各地で流行が散発し、2000年以降報告数が増えています。マラリアと異なり都市部でも発生します。原因はウイルスで、蚊(ネッタイシマカ、ヒトスジシマカ)に刺されて感染します。早朝や夕方(~夜間)に、屋外より屋内で刺されて発症するケースが多いようです。感染は通年発生しますが、蚊が繁殖しやすい雨季に増えます。典型的な症状としては、倦怠感、発熱、関節痛、頭痛、目の奥の痛みなどで、38度を超える熱が数日続き、その後発疹が出現します。一段落してからも数週間は肝機能障害や倦怠感が続く厄介な感染症です。なお、重症度は様々で、風邪程度で済むケースもあります。一般に感染を繰り返すと重症化(出血傾向やショック状態)すると言われますが、インドネシアでは初回感染で重症化するケースが散見されます。ジャカルタの在留邦人からも毎年何名も発症者が出ていますし、バリ島やロンボック島からシンガポールへ緊急移送された邦人の重症化事例も複数あります。ワクチンも特効薬もありませんから、予防は防蚊対策に尽きます。1週間ほどは発症者から蚊を介して他人にうつる可能性がありますから看病する際は注意しましょう。
(5)アメーバ赤痢
原虫が原因で、普通は飲食物を通じて経口感染します。潜伏期は数週間で、腹痛、下痢、血便、発熱などで徐々に発症すると言われています。腸から飛び火して、肝膿瘍や脳膿瘍を来たし致命的となる場合もあります。診断には便検査が必要ですが、一度では分からず繰り返し検査してやっと診断がつくケースもあります。下痢が長引く場合や血便では便検査を受けて下さい。特効薬(メトロニダゾール)は、内服後に倦怠感や気分の落ち込みなどが出やすく、診断・治療ともに厄介な感染症です。
(6)腸チフス
汚染された飲食物から感染します。発熱・全身消耗が主な症状で、治療開始が遅れ重症化すると致命的ですし、治療が不十分だと長期間排菌を続けます。ワクチンは日本では未認可ですが、インドネシアにある外国人を対象とした医療機関で欧米製のワクチン接種を受けることが出来ます。職員・家族の希望者に予防接種を実施している日系事業所もあります。
(7)ウイルス性肝炎
A型肝炎とE型肝炎は食べ物や水から経口的に感染します。A型肝炎はワクチン接種で予防可能です。そのためインドネシアでA型肝炎を発症する邦人は近年殆どゼロです。他方、E型肝炎は、予防ワクチンが無く在留邦人からもまれに発症者が出ています。B型肝炎は血液や体液を介して感染し、肝硬変や肝癌の原因となります。性行為、輸血、母子感染によって感染することがほとんどです。インドネシアは、東南アジアでもキャリア(無症候性感染)が多い国の一つに挙げられています。
(8)マラリア
ハマダラカに刺されて感染する原虫疾患です。マラリアには4種類ありますが、インドネシアでは致命的になりやすい熱帯熱マラリアが大多数です。流行の程度(蔓延度)は国内各地域により大きく異なります。ジャワ島・スマトラ島の大都市では流行はありませんが、パプア州、東ヌサトゥンガラ州、中部スラウェシ州、西ヌサトゥガラ州、西カリマンタン州などでは通年流行している模様です。米国CDCの流行度地図も参考になります。予防法については、「日本の旅行者のためのマラリア予防ガイドライン」が日本寄生虫学会ホームページ上で公開されています。流行地に滞在して、1ヶ月以内に悪寒・戦慄・発熱・頭痛などの症状が出た場合は、マラリアの可能性がありますので、遅くとも数日内に医療機関でマラリアの血液検査を受けて下さい。
3.健康上心がける事
(1)食事・飲料水
水道水をそのまま飲用すべきではなく、飲用するなら市販のミネラルウオーターが無難です。食事は、十分に加熱調理された料理を熱いうちに清潔な食器で食べるよう心がけて下さい。外食時は衛生管理の行き届いた飲食店に限り、衛生管理の悪い路上の屋台は避けます。生野菜、カットフルーツ、刺身・寿司などの和食は、加熱処理が出来ないだけに、より厳しい食品衛生管理が求められます。
(2)蚊対策・虫対策
屋外では、皮膚の露出を最低限に抑え、忌避剤(DEET含有のスプレー、ローション)を使用して下さい。使い方は、国立感染症研究所が「安全な忌避剤(虫除け)の使用方法」をインターネット上で公開しています。独立家屋や集合住宅の低層階では、網戸や窓ネット、蚊取線香など屋内の防蚊対策も必要です。蚊は、植木鉢や空き缶、古タイヤなど小さな水溜まりでも繁殖しますから、繁殖場所を作らないように家屋の周囲にも気を配ります。敷地内で定期的に殺虫剤を噴霧するのも有用です。また、マラリア汚染地域に長期滞在される方は、殺虫剤を染み込ませた蚊帳の中で就寝するなど一層の注意が必要です。
(3)脱水・日焼け対策
特に屋外活動時には発汗で多量の水分が失われます。のどの渇きを自覚する前から水分を補給して下さい。真水よりはスポーツドリンクをお勧めします。赤道直下の日差しは強く、日除けローションやつばの広い帽子や首巻きなど日差し対策を工夫して下さい。
(4)狂犬病を侮らない
狂犬病には特効薬が無く、一度発症したら命が無い恐ろしい感染症です。インドネシアは狂犬病汚染国ですから、居住地・行動範囲や活動内容にもよりますが、予めワクチン接種を済ませておく(少なくとも2回)と無難です。万が一、犬・猫・猿などにかまれた場合は(擦過傷や舐められた場合も)、一刻も早く医療機関を受診し、追加のワクチン接種(暴露後免疫)と必要に応じて狂犬病免疫グロブリンの注射を受けて下さい。邦人旅行者の多いバリ島でも2008年以来、狂犬病の犠牲となる地元民が相次いでいます。島内医療機関に在庫が無く、免疫グロブリンの注射を受けるために急遽シンガポールへ飛んだ欧米人旅行者のケースも複数あります。
(5)使用人の健康監視
当地では私用の運転手・メイド・ベビーシッターを雇う邦人家庭が少なくありません。運転手や室内で働く使用人については、年1回を目途に結核と消化器感染症(便検査)などの検査を受けさせると良いでしょう。ジャカルタでは運転手からの感染が疑われた外国人の結核症例も起きています。インドネシアは新規患者数では世界五番目の結核蔓延国(出典WHO Global Tuberculosis Control 2010)です。
(6)鳥インフルエンザ
インドネシア各地でH5N1鳥インフルエンザによる家禽大量死事例が散発しています。右発生状況は、FAOのAvian Influenzaホームページを参照して下さい。ヒトが感染する事例も発生しており、2010年に入ってからもジャカルタ、中部ジャワなどからH5N1鳥インフルエンザによる犠牲者が報告されています。現時点(2010年10月)では、鶏や野鳥との直接・間接(排泄物など)の接触が無い限り在留邦人や邦人旅行者にとって直近のリスクは小さいと考えられますが、感染予防のための注意事項を確認し、食料品の備蓄などの準備を怠らぬことです。
(7)新型インフルエンザ
Pandemic H1N1 2009は、インドネシアでは2009年6月に国内発症第1例が確認され、同年9月までに千名ほどの感染者が出たことが公表されています。その後は保健省は感染者数の公表を取り止めたので、それ以降の流行状況は不明ですが、年齢別にみると10~19歳の感染者が多かった模様です。隔離措置は次第に緩和されましたが、指定病院に数週間強制隔離された事例や、帰国便への搭乗が拒否され空港から指定病院に搬送された事例など、在留邦人・邦人旅行者にも様々な影響が出ました。なお、2010年10月の時点では、タミフル・リレンザは政府の流通管理が厳しく医師の処方箋があっても薬局で購入・入手できません。