一昔前ならともかく、今や国際結婚は日本人にとってさほど珍しいものではありま
せん。年間1,700万人の方が海外に出かける時代です。それぞれが海外でかけがえのな
い出会いを経験し、ある人は結婚というゴールにたどり着く。私たち外務省職員の中
にも、国際結婚で幸せな家庭を築いている方も大勢います。
一方で幸せなはずの国際結婚が、
時には思いもよらぬ悲劇を生むこともあるのです。
『中東のとある国を旅行中のAさん。滞在中に現地の学生から「日本人の方ですか」
と声をかけられ、うなずいたところ、その若者は親切そうに観光案内を買って出た
。その若者は一見、Aさん好みのタイプだったこともあり、案内役をお願いした。
一通りの観光を終えると、若者はAさんを自宅に招待し、ご馳走でもてなし、宿の
提供を申し出た。Aさんはこの申し出も受け入れ、しばらく宿を借りることにした
が、それから間もなく、若者はAさんに結婚を申し込んだ。Aさんは承諾し一緒に
日本に向かったものの、しばらくして、相手から離婚を迫られた。』
もし、あなたが異国の地で不安な中、親切な外国人男性に好意を抱き、しかもその
男性から求婚されたらどうしますか。大抵の日本人女性は躊躇するでしょうが、今の
時代、「その場の勢いで」という積極的な方もいないとは限りません。
件の若者の言動が、純粋な気持ちからのものであれば問題はないのですが、
中には、不純な動機からいわゆる「偽装結婚」を企てる者もいるのです。
特に日本のビザの取得が非常に難しい国には、いろいろな手段でビザを取得しよ
うと企てる者もいます。日本人女性と結婚する、あるいは交際をして、交際相手に
身元保証人になってもらうというやり方も、その一つに他なりません。
フランスの作家スタンダールは、恋愛を「結晶作用」と称しました。
日本流に言えば、さしずめ「痘痕(あばた)もえくぼ」ということでしょうか。
いずれの言葉も、恋愛中は、冷静に相手の本質を見抜くことが如何に難しいかと
いうことを物語っています。
ましてや、始めから相手を騙すことが目的で近づいてくる者であれば、美辞麗句
の限りを尽くし、何としてもあなたの心に結晶を植え付けようとするでしょう。
結婚という生涯の大イベントをビザ取得の道具にされたら、たまったものではあ
りません。
海外に限らず相手を知るということは、けだし難しいものです。