『紛争の続くA国。外務省では、現在、A国全土に対して「退避勧告」を発出
している。現地に滞在していた企業駐在員等の日本人滞在者は既に出国し、
残る日本人は若干の報道関係者と大使館員のみとなっていた。
治安情勢はさらに悪化し、外務省は現地大使館の一時閉鎖を決定し、
大使館員は近隣国Bの日本大使館に移動した。
数日後、一人の日本人の若者が「A国の状況を自分の目で確かめてきたい」と
B国の日本大使館にA国への入国方法を尋ねにきた。
大使館員は入国を思い止まるよう促したが、若者はその説得も聞き入れず、
遂に入国してしまった。
さらに、その数日後、A国の情勢はさらに混沌とし、まさに市街に砲弾が
飛び交う状況。日本人若者は自分の身に迫る危険をやっと実感した。
そして自分の行動が無謀だったと悟り、出国を決意した。
しかし出国手段はすでにない。出国の支援を期待できる日本大使館員も
当地にはもういない・・・・・・・』
これはあくまでもフィクションですが、非常によく似たケースも過去に
生じています。
こういう場合、外務省としての対応は非常に難しいものがあります。
海外に渡航・滞在する日本人の生命・身体を守ることが外務省の重要な任務で
あることは論を待たず、前述のような極めて対応が困難なケースであっても、
できる限りの支援はしてきました。
しかしながら、退避勧告が出ていて、十分に危険が予想されるような地域に
自らの意志で赴いた方がトラブルに遭遇された際、当然の如く日本大使館に
サポートを期待することの是非は、本人はもちろん、それを支援する大使館員
双方の生命に関わるだけに、今後大いに考える必要がありそうです。
外務省が出している「退避勧告」は、その名の通りあくまでも退避、
或いは渡航の自粛をすすめるもので法的な強制力はありませんが、実際に高度な
危険が存在することはもちろん、例に挙げたように、危険回避の手段が著しく
制限されている地域に対し、邦人保護の最終的な手段として発出するものです。